アジアンプレナーズ紹介
バズー株式会社 代表取締役 森下 洋次郎さん
【プロフィール】
森下洋次郎(もりした・ようじろう)1977年 鹿児島県生まれ。
鹿児島ラ・サール学園中学・高等学校卒業。慶應義塾大学在学中に渡米、シリコンアレーハイテクベンチャー企業のインターシップに参画。
大学卒業後、プライスウォーターハウスクーパースコンサルタント(PwCC)株式会社に入社。サプライチェーンマネジメントや組織変革等、多くの大規模プロジェクトに従事。その後、株式会社J-Payment取締役COOを経て、2006年9月バズー株式会社設立。
【アジアンプレナーインタビュー(14)】
「これからの日本の経済状況は、”国難”ともいえる事態。
今こそ『日本人の付加価値』が問われていると思います。」
聞き手・文・撮影・構成/APS主宰 岡崎
■事業内容について
1つめがモバイルソリューション事業、2つめがソーシャルアプリ事業、3つめが人材育成・スクール事業、4つめが海外事業です。
メインはモバイルソリューション事業で、携帯サイトに関するコンサルから企画・開発・運営までをトータルで手がけています。
ソーシャルアプリ事業では、ソーシャルゲームを自社タイトルで、
現在2つほどリリースしています。
最近では受託も含めてゲーム系の企画案件が増えていますね。
また、当社は上海・タイ・インドネシアの3ヶ国にも拠点があり、
各拠点とも基本的には日本と同様のサービスを展開しています。
現地で営業活動もなさっているのですか?
特にタイでは、日系企業と現地企業のお客様が半々くらいの割合になってきていますので
現地マーケットも確実に拡大しつつあると思います。
更に一部現地ユーザー向けのBtoCサービスなども手がけています。
今後もできればアジア各国に拠点を増やしていき、
アジア全域へと販路を拡げていきたいですね。
逆に開発拠点としては、インドネシア一国に集中させていく予定です。
そうすることで日本の開発部隊はプロデューサーの役割に特化し、
企画力をより一層高めていくことができるのではないかと思っています。
■2期目に訪れた試練
「創業期にひたすら規模を追い求めたから、
早い段階で経営の本質に気付けたと思います。」
岡崎:森下さんのこれまでの道のりを
教えてください。
森下:新卒で大手外資系コンサル
ファームに入社しましたが、
次第にもっと事業サイドでやりたいと
思うようになり、3年勤めたあと、
決済システム販売のベンチャーに
転職しました。
そこは当時まだ3名のスタートアップ
直後の会社だったので、あらゆること
を任され、地道な顧客開拓営業も
経験しました。
おかげで、まるで自分が起業したかのような擬似体験をすることができたと思います。
そして2006年に設立したのがバズー株式会社です。
当時はモバイル全盛期だったのと、エンジニアの人脈もあったので、
モバイルの受託開発をやることにしました。
既に幾つかお客さんのあてもありましたし、僕はファイナンスが得意だったので
資本金6,000万を集めて10名くらいでスタートを切りました。
岡崎:なんか・・・そんな順調な起業、あんまり聞いたことないですよ(笑)。
森下:はい、”そこまでは”順調だったんです(笑)。
僕はその頃ひたすら数字だけを追い求めていました。
時価総額を吊り上げて会社の外面ばかりを取り繕い、
わずか1年で社員も20名以上に増やしました。
ところが2年目にそのひずみが出始めたんです。
4名いた役員がそれぞれ連れてきた社員たちは、
バズーという会社のビジョンについて来ているわけではありませんでした。
求心力をも持たない組織は全員がバラバラで、
次第にプロジェクトが火を噴き始めたんです。
僕は追い詰められ、役員全員に辞めてもらう決断をしました。
そのとき初めて社員たちともまともに向き合ったように思います。
「今後は自分が全面的に指揮を執る。
なんとしてもプロジェクトはやり遂げなければならないから
厳しいことも言うだろう。それが嫌なら今ここで辞めてもらって構わない」と。
そうしたら、次々と辞めていきましたね(笑)。
残ってくれたのは3名でした。
この3名は今も当社の中心メンバーとして頑張ってくれています。
本当に大切なものが何かわかった経験でした。
岡崎:わずか2期目でそんな試練があったのですね・・・
森下:はい。でもそのことがあってから、人材育成や経営理念について
真剣に考えるようになりました。
会社って、売上や時価総額じゃないんだなと。
僕はそこで改めて経営の本質とは何かを考え、
現在は「従業員満足と従業員の家族の幸せ」を第一に掲げています。
従業員がいい顔じゃないと、お客様にもいい提案はできませんからね。
そうして小さい事務所に移って再スタートしました。
そこからは採用ポリシーを見直し、規模を追うことをやめ、
ひたすら顧客満足度と品質の徹底を図りました。
その甲斐あってお客様の信頼も得られるようになり、
追加オーダーも次々と入るようになりました。
スピードを緩めたことで、結果的に会社としては磐石な組織体制になりました。
■アジア展開について
「大きな可能性を秘めたインドネシア市場。
でもマネタイズには課題もあります。」
岡崎:海外に目を向けたのはいつですか?
森下:5期目ですね。中国に視察に行った
のがきっかけです。
とりあえず中国で何かビジネスを
やろうと思って、日本向けに作った
ソーシャルゲームをローカライズして
中国でリリースしました。
それからは頻繁にアジアへ
出かけるようになりました。
当時は知人が出張に行くと聞いたら、
とにかくついて行ってましたね(笑)。
行けばその都度何かしらビジネスの
ヒントは見付かります。
その結果、現在では、上海、インドネシア、タイにそれぞれ拠点を持つまでになりました。
岡崎:インドネシアは、人口が2億3,000万人もいて、
Facebookユーザーが3,000万人(世界2位)もいるソーシャル大国ですから、
世界中のIT企業の注目が集まっていますよね。
森下:その通りです。今後インドネシアでは確実にITが巨大産業になっていくと思います。
ただ、ユーザーのマネタイズには大きな課題があります。
外資規制があって、アンドロイドアプリは有料化はされていないですし、
そもそも携帯のコンテンツにお金を払うという文化がまったくありません。
岡崎:それは決済システムが未整備ということですか?
森下:ええ、それもあります。
それと、インドネシアって貧富の差があまりに大きくて、
マーケットがセグメントしづらいんですよ。
更に、ユーザーがFacebookに集約され過ぎているために、
外部コンテンツにどれだけ誘導できるかという課題もあります。
でも今のうちからい込みを図ることが何よりも重要なので、
当社では他社に先駆けて色々と試行錯誤を繰り返しているところです。
岡崎:いち早く進出したことで有利なことも色々とありそうですね!
森下:はい。これからインドネシアに進出する大手企業に代わって
現地採用や人材育成なども請け負っています。
うちには日本人スタッフがインドネシアに常駐していますので、
現地スタッフの教育などマネジメントがしっかりできることが強みです。
岡崎:タイはどうですか?
森下:タイは昔から日系企業の進出が多いので、現地の販路開拓という意味では
営業が進めやすい国だと思います。
ユーザーのITリテラシーの面ではインドネシアとほぼ同じですね。
■今後の展開
「アジアにみなぎるエネルギーを感じられる環境で
『生きる力』を身に付けた人材を育てたい。」
岡崎:御社の今後の展開について
教えてください。
森下:今後も積極的に海外展開を
図っていく予定ですが、
日本は日本で大事なマーケットだと
思っています。
アジアには日本で貯めた
ノウハウを思いっきりいかせる
フィールドがありますから、
僕はその両輪のバランスが大切だと
思っているんです。
また、海外で戦える人材の育成にも力を入れていきます。
当社はアジア各国に拠点があることで、日常的に海外を感じ取れる環境があります。
実はこのことがとても大事で、例えばインドネシア人スタッフと日本人スタッフが
同じプロジェクトに参加するわけです。
そうすることで、日本人エンジニアは危機感を覚えます。
インドネシアスタッフの給料は3万円、でも自分は30万円もらっているんだから
同じレベルの仕事をしていてはいけないという危機感です。
同じレベルであれば、市場の原理で賃金の安いほうへ仕事は流れます。
当社に限らず、この先日本人は正直きついと思いますよ。
でもこの危機感を日常的に感じ取っていれば、
「日本人の付加価値は何なのか」を常に考えて行動できる人材が
育っていくのではないかと思います。
岡崎:素晴らしいですね。そんな森下さんから見た日本はどんな国ですか?
森下:東南アジアに行けば、街を走っている車はほとんどが日本車です。
それを見るとやっぱり日本はすごい国なんだなって思います。
でもそれは僕らの先代の日本人がすごいのであって、
僕らの世代がすごいわけじゃない。
実は先日、タイでコンペに参加してタイの現地企業に負けてしまったんです。
インターネットの世界は非常にフェアです。
東南アジアの国々もどんどん力をつけてきている。
そういうことも日本だけで仕事をしていたら気付かないですよね。
今日たまたま2040年のGDPの成長予測の資料を見ていて愕然としました。
日本が2040年までおよそ500兆円で横ばいなのに対して、
中国は5,000兆円にまで到達します。日本の10倍の経済規模ですよ。
そういう時代が僕らが生きている間に来るって僕はすごいことだと思うんだけど、
我々日本人の多くはまだ危機感すら持ってないのが現実だと思います。
岡崎:これからアジアに進出したいと思っている方へメッセージはありますか?
森下:世界で起こっていること、アジアで起っていることは、
実際に現地に行かないとわかりません。
ビジネスプランなんてなくてもいいから、まず行くことが先決だと思います。
岡崎:では最後にアジアンプレナーズサロン(APS)にもメッセージをお願いします。
森下:APSは岡崎さんの前のめりなバイタリティに尽きるんじゃないでしょうか(笑)。
アジア全体を、日本人同士ベンチャー同士、力を合わせて攻めていこうという
コンセプトには大変共感できます。
僕もできる限り協力していきたいと思っていますよ。
その、今の日本人に最も必要な良い意味での「図々しさ」をこれからも大切にしてくださいね。
岡崎:なんだかあんまり誉められている気がしませんが・・・(笑)、
これからも前のめりでがんばります!
次回【第6回】APSでのご登壇も楽しみにしています。
森下社長、今日は貴重なお話をありがとうございました。
【取材者のコメント】
最近急激に注目を集めているインドネシアですが、森下社長が進出したのは1年前。楽天インドネシアとほぼ同時期ですから、日本のベンチャー企業では第一人者に近い存在です。
世界に挑戦する森下社長のような熱い想いを持った若き起業家が日本にもっと増えたら、きっとこの国の未来は明るいと思います!森下社長の手で、世界を舞台に活躍できる『生きる力』を持った人材が数多く生み出され、そして日本を変える力へと発展することを、私は願ってやみません。


