アジアンプレナーズ紹介
ヴィレッジヴァンガードコーポレーション 代表取締役会長 菊地 敬一さん
【プレフィール】
菊地敬一(きくち・けいいち)1948年 北海道生まれ。青山学院大学卒後、出版社・書店勤務などを経て、1986年 名古屋で遊べる本屋「ヴィレッジ・ヴァンガード」を創業。
創業以来、26年連続増収増益。各店の既存店増収にこだわり、創業以来312ヶ月のうち未達はわずかに24ヶ月、創業以来16年連続既存店増収、公開前から公開後連続90ヶ月既存店増収という小売業界における未曾有の記録を打ち立てる。2003年ジャスダック上場。創業後16年間で退職者はなんと1名。
【アジアンプレナーインタビュー(12) ~スペシャル編~】
「今でも僕は3,000人の社員の中で一番ロックですよ。」
聞き手・文・撮影・構成/APS主宰 岡崎
■事業内容について
岡崎:菊地さん、こんにちは!
午前中東京は大雨だったのに、
菊地さんが現れる直前に突然
青空が広がりましたよ。
菊地:僕はものすごい晴れ男なん
です(笑)。
岡崎:今日は改めてヴィレッジヴァン
ガードについて聞かせてください。
菊地:ヴィレッジヴァンガードは
26年前に、僕が本と雑貨を
「融合して」創った店です。「複合」じゃなくて「融合」ね。
岡崎:融合?
菊地:本と文房具、本とCD、これらを「複合的に」扱っている業態は以前からたくさんありました。
それぞれ売り場が独立してる店。
でもそれってまったくカオス感がない。
僕はそのことがずっと不満だったんです。
それで僕が考えたオリジナルの店舗形態がそれらを「融合」させることでした。
つまり、売り場をジャンルごとに独立させずに本の隣に関連した雑貨、CDがある。
単純なことだけど、これがほかの店にはまったくない発想だったんです。
ここで重要なのが「アナロジー(連想)」。
本をキーにして、そこから連想される雑貨を並べるわけです。
そうすることでパノラミックな売り場ができあがる。
しかも本より雑貨のほうが粗利が高いので、
両方扱うことでマージンミックスで粗利を上げて
経営を安定させたいという目論見もありました。
それで一部のお客さんがめっちゃ喜んでくれたらそれでいいかなと。
まぁ賛同者が100人くらいいれば採算は合うなとソロバンはじいて
最初の店を名古屋で創ったんです。
そしたら、100人どころか意外といた!(笑)。
岡崎:菊地さんは最初から多店舗展開狙ってたわけじゃないんですよね?
菊地:うん。ヴィレッジヴァンガードの経営手法を、
経済評論家たちは色々難しく説明してくれるけど、
僕はただ、せっかく独立するんだから人と変わったことがやりたい、
それだけだったんです。
連想を駆使して売り場を作るという感覚が当時のリテイラーにはまったくなかったからね。
岡崎:菊地さんにとって、「本」を扱うことはマストだったんですか?
菊地:もちろん。僕は本が大好きですから。
それに連想ゲームは本からスタートするのが簡単だったんですよ。
例えば村上春樹。
彼をキーパーソンにして、そこから関連する商品を並べていく。
僕にはその連想が果てしなくできる。
だって村上春樹を読んでいれば、
トルーマン・カポーティやジョン・アーヴィンがでてくるわけです。
それらを村上作品の横に並べていきました。
昔はインターネットがなかったから、本を読んでなければわからないことです。
・・・今はアマゾンが教えてくれるけどね(笑)。
岡崎:なるほど(笑)。インターネットがなかった時代には、
その菊地さんの感性、つまり「アナロジーの提供」こそが
ヴィレッジヴァンガードの価値だったんですね!
菊地:僕は10人に1人がわかってくれればそれでいいと思っていました。
残りの9人はいつか振り返って、あぁあのときのヴィレッジヴァンガードのプレゼンは
こういうことだったんだなって思う瞬間があったらそれってカッコイイじゃない。
「最大公約数はダサイ」っていう美学が僕の中にあって、
だからヴィレッジヴァンガードは、大きなウェーブじゃなくて、
小さなムーブメントを起こしたかったんですよ。
でもね、最初はこんな店ありえないってさんざん言われましたよ(笑)。
本屋なのに『主婦の友』も『週刊ポスト』も『女性自身』も置いてない。
いわゆる売れ筋のベストセラー本もまったくない。
おまけに駐車場には車が二台しか入らない(笑)。
店にはビリヤード台とアメリカの図書館をイメージしたハシゴがあって、
裏山のイチョウの葉をかき集めて店中にバラ撒いたこともありました。
掃除のおばちゃんに「誰、こんなところにゴミ捨てたのは!」って怒られたりして(笑)。
理性ある経営者のやり方とは違うけど、
僕は、僕の店をいいと思って、ほかの店の前を素通りしてうちに来てくれる人が必ずいると
信じて疑わなかったんです。高ぶっていましたからね(笑)。
■飛躍のとき
「極端にこだわった既存店経営に後押しされて、
節操を曲げた多店舗展開にも不安はなかった。」
岡崎:その菊地さんがなぜ多店舗展開
へとシフトしたんですか?
菊地:次第に店のお客さんがバイトになり、
バイトが社員になり、そろそろ彼らの
ために新しい店でもを作るかなぁと。
ヴィレッジバンガードは現在国内に
400店舗弱を数えますが、
その最大の特徴は、チェーン・
オペレーションではないところ
です。
チェーン・オペレーターが考えることは、まずマーケットを1,000億とかって見込んで、
そこからドミナント方式で店舗を量産していくことです。
それで、名古屋の商圏制覇、次は東京の商圏・・・と面をおさえにかかります。
でも僕らはチェーン・オペレーションじゃないから、店はどこにあってもいい。
名古屋の次が釧路でもいいわけです。
面をおさえるために競合と戦うこともないから、
まさにブルーオーシャンだったんですよ。
あ、知ってる?ブルーオーシャンの反対はレッドオーシャン。
「血を血で洗う」っていう意味から”競合が多い状態”を表わす経済用語だけど、
あれってフランス人が考えた言葉らしいね。
フランス人らしいエスプリの効いた言葉だよねー。
岡崎:へーそうなんですか!で、多店舗展開について・・・
菊地:あ、そうそう(笑)。多店舗展開に必要なのは、「寛容」と「忍耐」と「度胸」。
この3つね。
人に任せる寛容、彼らを信じる忍耐、新規出店する度胸。
特にロードサイドの(郊外型)店舗展開から駅ビルへの出店が決まったときが
ヴィレッジヴァンガードの一つの転換期だったかな。
僕はそこで初めて節操を曲げたわけですよ。
駅ビルには今まで対象にしていなかった中学生や高校生もたくさん来ますから
店の在り方や品揃えを変えていかなければならない。
でもそうやって、形を変えてもやっていけると確信できたのは、
徹底した『既存店昨対主義』のおかげです。
岡崎:キゾンテンサクタイ・・・?
菊地:一般的なチェーン展開の小売業では、
既存店の売上は年と共に下降カーブを描くのが普通です。
その下がった分の売上を埋めるために、どんどん新店を立ち上げていく。
そうやってグロスで売上が上がるように調整していくのがよくある経営手法。
でも僕はそう考えなかった。
去年より今年、今年より来年、経験を積むほど社員の腕は上がっていくはずだし、
既存店の売上は必ず前年より伸びるはずだと信じたんです。
一般論がどであれ、既存店は永遠に売上を拡大できる、
僕らはそういう稀有な小売業をやっているんだということを
僕は、僕自身と、そして社員にも信じ込ませました。
僕は社員に「どうして売上が下がったの?」とは決して聞きません。
「腕が落ちたんじゃない?」って聞くんです。
売上が下がった理由を尋ねれば、人は必ず言い訳をします。
環境が悪い、競合店ができた、天候が悪かった・・・確かに理由は幾らでもある。
でも「腕が落ちたね」って言えば、それは本人の問題だから誰も言い訳はしません。
僕はそうやって社員の腕が毎年上がっていくことを強く信じたし、
彼らもこの、曖昧で非合理的で前例のない僕の方針を盲目的に信じてくれた。
そうやって徹底的に既存店経営にこだわったことで
26年間連続増収増益を成し遂げたんです。
それがここまでヴィレッジヴァンガードを育ててきた僕と僕の社員の最大の誇りです。
岡崎:そのお話、涙が出そうになります。今後も既存店主義を?
菊地:もちろん既存店の増収にはこだわっていきますが、
今後は更にM&Aなどで時間を節約しながら店舗数を拡大する
ダイナミズムへの転換期が来ているという気がしていますね。
ヴィレッジヴァンガードは空間さえ創り上げればあとは何を売ってもいい。
僕らのメソッドを投入してヴィレッジヴァンガード色に染め上げていけば
1,000店は見えています。
岡崎:ヴィレッジヴァンガードはこれからも進化を続けていくんですね!
■上場という選択
「100億まで本部は僕一人です。それって普通だと思ってました(笑)。」
岡崎:これまで順調に会社を拡大されて
きたように見える菊地さんですが、
苦しかったことはありますか?
菊地:月末はいつもお金がなくて(笑)。
資金繰りにはずっと苦労して
いましたよ。
岡崎:創業期ですか?
菊地:ううん、結構最近(上場前)まで!
(笑)
経営って資金繰りなんだと
思いましたね。
僕はこの状況を「自転車操業」ではなく、「オートバイ操業」と呼んでます。
倒れたら死ぬ!(笑)
黒字倒産が実際にあるとすれば、それはきっと弊社で起こるんだろうなぁと
僕はいつも思っていました(笑)。
でも既存点の売上がずっと上がり続けてたから
僕は資金繰りの苦労なんてなんとも思わなかったです。
だから普通の経営者がやるように、仕入れを減らすこともしなかった。
仕入れを控えれば店のクオリティは落ちますから。
でもこれが結果的にはヴィレッジヴァンガードの成長を支えたと思います。
銀行さんにはいつもこう言っていましたよ。「BSの歪みは成長の証です!」ってね(笑)。
既存店の売上を上げ続けてくれた社員には感謝しています。
岡崎:創業15年後に上場という選択をされたのはなぜですか?
菊地:あるとき証券会社から「上場しませんか?」と言われて、
「上場するには何が必要なの?」って聞いたら、
小売業のようなオールドエコノミーなら経常5億は必要だと言われたんです。
「それ以外は?」って聞いたら「組織だった経営です」って言われましてね。
僕はそのとき、一週間に3.4回徹夜して本部機能を全部一人でやってたんですよ。
岡崎:ええ!一人で、ですか?
菊地:そう。もちろん店舗には人がたくさんいたけど、
それ以外の事務作業は全部一人でやってたんです。
100億までは一人でできますよ。
あ、僕ね、事務処理能力ものすごい高いんです。
めちゃくちゃ仕事速いし。ブラインドタッチはできませんけど人差し指2本あれば!
多分本当は総合職より事務職のほうが向いてると思う(笑)。
でもそれだと僕が倒れたらおしまいですからねぇ。
(上場は)「組織だった経営」を目指すいいチャンスかなぁと思って。
岡崎:な、なるほど・・・菊地さんのお話はどこまでも非凡ですね。
汎用性がなさ過ぎて、私、うまく文章に落とせるか不安です・・・(笑)
■世界への挑戦
「東京か東京以上のプレゼンじゃなきゃ、世界には通用しないと思っています。」
岡崎:それではいよいよ御社のアジア展開
について教えてください。
菊地:やっぱり国内はどこかでピークアウト
するだろうと思っています。
でも、ヴィレッジヴァンガードは
ある程度文化が成熟したところしか
馴染まないと思うので、まずは
香港に出店しました。
現在3店舗出店しています。
あとはヨーロッパもいいよね。
岡崎:(き、菊地さん!これ「アジアンプレナーズサロン」の取材なんですけど!)
菊地:ああ!そうだ、ごめん、アジアだよね。
やっぱりこれからはアジアですよ!(笑)
香港で10店舗程やったら、次は台湾で100件、韓国で100件という感じで
弧を描くように進めていこうと思っています。
その間に、中国沿岸部もかなり成熟してくるんじゃないでしょうか。
岡崎:香港に出店されてみてどうでしたか?
菊地:香港は日本の10年くらい前と似ています。
日本に比べると若干客単価は低いですが、
(ヴィレッジヴァンガードのスタイルは)充分受け入れられていると思いますよ。
僕が特に気をつけているのは、中華圏だからといって
商品や品揃えを決しておろそかにしないということです。
これで失敗した小売業者は幾らもありますから。
東京と同じかそれ以上のプレゼンじゃないと、それは相手国にもわかります。
だから最初から日本と同じ、フルラインでいこうと決めました。
その代わり、香港は家賃が高いので一等地ではなく少し家賃の低い場所を選んでいます。
これは日本国内と同じ戦略ですが、PLに占める家賃比率を下げつつも、
品揃えや店の世界観をきっちり守ることで口コミ効果を拡げていく、
この手法は香港でも通用するんだなと確信しました。
岡崎:これからアジアに進出する経営者にアドバイスをお願いします!
菊地:僕はまず国内を固めて満を持して海外にいくのが望ましいと思います。
あとは、現地の人を採用するなら、現地の人をトップにしたほうがいいと思います。
うちは最初だけ日本人が3人行きましたが、現在は1人にして
(現地法人の)社長は香港人にしています。
彼らには彼ら特有の文化やメンタリティがありますから、
現地の社長に任せるべきところは任せるべきでしょう。
日本人はうまく叱れないんですよね。
現地のスタッフも日本人上司から叱られるとへこみますし。
岡崎:ではここで、アジアンプレナーズサロン(APS)についても
ぜひメッセージをお願いします。
菊地:とてもいい人が集まっていると思いましたよ。さすが人脈の岡崎!
優秀な人が多くて、クオリティの高い会だと思いました。
明日(5月25日第6回APS)も参加したかったんだけど、
今夜名古屋に帰らないといけないから・・・また日程が合えば参加しますね。
■成功者の更なる夢
「現場の自主的な判断でいきいきと仕事をすることが人々を解放する」
岡崎:私、いつも思うんですけど・・・
それだけの成功を収めてもなお、
常に変わらないスタンスで
菊地さんが楽しく穏やかに生きて
いられるのはなぜですか?
菊地:僕は成功がゆるやかだったから。
とってもリーズナブルでリベラルな
発展の仕方だったと思います。
それと、常識に照らし合わせて
違和感のあることを僕は決して
やらないです。
話題性のある会社や経営手法が一時もてはやされたとしても
それは一過性のものだと思いますから。
岡崎:では最後に、菊地さんのこれからの夢は何ですか?
菊地:ノン・チェーン・オペレーションの専門店として、世界No.1の規模になりたいですね。
僕はヴィレッジヴァンガードをチェーン・オペレーションではなく、
「マネジメントモデル」だと思っているんです。
ボードメンバーが考えたことをどう末端の社員にまで継承していくか、
このことには最大限の注意を払っている会社だと思います。
僕はこの先どれだけ世界に拡大しても、現場を絶対にロボット化したくない。
現場の自主的な判断でいきいきと仕事をすることが人々を解放するんだという
全共闘世代特有の思想を僕は持っていましてね、そういう経営がやりたいし、
ヴィレッジヴァンガードのような空間を作り上げるのに
チェーン・オペレーションは馴染まないと思うんですよ。
この考え方を貫いて世界に2,000店舗まで拡大して、
ヴィレッジヴァンガードって変わった会社だったけど、
でも実は本質をついた経営だったよねって後世の人に思われることが夢かな。
その頃は僕の何代かあとの経営者だと思いますけど、
「なんでチェーン・オペレーションの手法を使わずにここまで拡大できたんですか?」
って聞かれたら
「僕たちにはこれしか方法がなかったんです。」
って答えたらかっこいいよなーー!
・・・・って言ってる僕の話が一番「常識的に見て違和感がある」って
皆から言われるんだけどね(笑)。
岡崎:はい。私も今日のお話、違和感だらけで困惑しています(笑)。
菊地:行間を埋めるのがエディターの腕ですよ。
岡崎さんなら非汎用を普遍的なビジネスストーリーに仕上げてくれると信じてますから!
岡崎:そ、そんなぁ・・・・
【取材者のコメント】
ブレない信念と変化を恐れぬ柔軟さ、そして人のありのままを受け入れる包容力。「成功」とは決してほかの何かを犠牲にして手に入れるものではないということを、菊地会長の豊かな人生が教えてくださっているように思います。そして菊地会長の手にかかれば、経営も一つの芸術のように人の心に感動与えることができるのだということも。ヴィレッジヴァンガードという菊地会長の「作品」は、きっと世界中の、そして後世の人々の生活をも豊かに彩り続けることでしょう。
私も『本』と『活字』をこよなく愛する人間として、アジアに挑戦する経営者たちの熱い想いを文字にして表現することに、今大きな使命を感じています。 そのきっかけと自信を与えてくださった菊地会長に心から感謝しています。


